「果なき心の彷徨――これだ、これを続けてゐるにきまつてゐる。それが一つの問題が終らないうちに他へ移る。いやさうではなしに一つの問題を考へると必然次の考へへ移らねばならなくなる、それが燎原の火の様にひろがつてゆく一方だ。これの連続だ、然しこれも疲れるときが来るのだらう。
おれは今心がかなり楽しい様な工合だからこれがかけるのだが、これも鬼の来ぬ間の洗濯で、あとでこれをかいたことの後悔が来るにきまつてゐるのだが、俺は今何かに甘えてこれをかいてゐるのだ。(中略)この手紙はさばかれるだらうが、さばく奴に権威のある奴はない――かう思つて書きやめる。」

— 梶井基次郎「中谷孝雄宛ての書簡」(大正12年2月10日付)

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